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『時空探訪・奇譚集』
『甦った三島由紀夫』
ヴァイオリンソナタに比べるとチェロソナタの作品数はずっと少なく、演奏会のプログラムに載ることもめったにない。ベートーヴェンの第3番か、むしろバッハの「無伴奏チェロ組曲」の方がよく取り上げられるくらいのもの。
ブラームスはチェロソナタを2曲作曲している。今回紹介する第1番は30歳前後の壮年期の作品で、第2番(54歳の円熟期の作品)と比べると技巧的にも精神的にも未熟さを感じざるを得ないが、いかにもブラームスらしい重厚で渋味のある楽曲である。何より私にとってはこの第1番の方が親しみやすい。
そもそもブラームスという人物が優柔不断というか、スパッとしたところがない性格なのであろう、その楽曲も全体にもやもやと重たい雲がかかった楽想のものが多い。その意味でもチェロソナタというのはそういうブラームスの個性に似合った表現形態であるように思える。とっつきは悪いけれども、聴けば聴くほどその玄妙な味わいがにじみ出てくる。
第1楽章、冒頭から憂愁を帯びたチェロが何か問いかけるように歌いだす。この憂愁は時に熱を加えながらも燃え上がることはなく、ぐつぐつと煮詰まったり冷めたりと、いかにもブラームスらしい楽想である。
第2楽章はメヌエット風であるけれども、ちっとも明るくなく、重々しく侘しいチェロの旋律が流れる。沈思内省へと向かう。
終楽章、強いタッチのピアノから始まり、それに応じてチェロも奔流する。そのままクライマックスへと走るが、ベートーヴェンのような人生肯定、光明が見える終わりではない。全曲を通して陰陰滅滅としたものが残る。
ちなみにブラームスのピアノソナタは3曲。それぞれの作品番号が1.2.5で正に初期に集中している。いずれもこのジャンルでは長大と言ってよいスケールの作品である。これまた一括りに言ってしまうと、一回聴いただけではとても馴染めない、重苦しい楽曲である。ところで作品1というのは、ブラームスに限らず、また音楽に限らずあらゆる芸術家についても言えることかもしれないが、自ずとその作者の本質が表出されるものではなかろうか。ブラームスの1番も紛れもなくブラームスそのものである。
しかしながら、そのブラームスの同じピアノ作品でも、後期晩年の作品はいずれも小品ながらずっと馴染みやすく、また一度聴いただけでも心の底に仄かな種火を残す、いわゆる珠玉の名作が多い。ブラームス自身がピアノの名手であったとともに、この楽器への愛着も強かったのだろうとうかがえる。
本題のチェロソナタ第1番に戻ろう。先述したようにこの曲は壮年期の作品で、作品番号は38、ピアノ五重奏曲など多くの室内楽の名曲が作られた頃である。チェロとピアノのバランスの上からも室内楽として楽しめる一曲である。
そんなことも含めて、ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロ、ダニエル・バレンボイムのピアノによる1967年録音盤をお勧めしよう。ついでながらこの年に二人は結婚している。それから20年後、デュ・プレは多発性硬化症という難病のために他界した。そんな彼女の短い全盛期の中でも、緻密にしてダイナミックな演奏を堪能できる一枚である。
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