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『ロゴスドン 第34号』の発行は、1999年(平成11年)9月1日でした。この号の特集を情報通信にしたのは、当時、あらゆる社会経済活動が情報に影響を受け、先端科学技術の発展により益々高度な情報化社会が急速に進みつつあったからです。その反面、プライバシーの侵害や情報依存性の増大した社会の歪みを突いた犯罪など、数々の深刻な問題も浮上していました。それで、情報通信工学の先駆者として情報通信技術の発展に大きく貢献されてこられた猪瀬博先生にご登場頂きたいと思いました。
いつものように都内の図書館を数館はしごし、猪瀬先生の著書数冊を参考に作成したインタビュー依頼書をお送りすると快くご承諾をくださいました。猪瀬先生は当時、すでに東京大学を定年退官され名誉教授になっておられましたが、文部省学術情報センターのセンター長をされていましたので、その所長室でインタビューをさせて頂きました。
まず最初に、情報通信工学という学問の概要について伺ってみました。すると、「情報技術を発展させた、学問尊重の精神」という小見出しをつけたお話を頂きました。それに続き、「無教養な専門家の増殖が、社会の最大の脅威である」「過度の競争原理による、不公正な商取引」「日本社会の根本的な問題は、教養教育の稀薄さにある」という小見出しを付けた非常に充実した議論が展開してゆきました。
そして最後に、情報技術の文明史的意義と今後の課題について伺ってみました。すると、次のようにまとめてくださいました。
「人間が知的な存在として現れて以来、人間の文化、文明を育てていく上で、情報技術というのは欠くべからざる役割を、ずーっと果してきたわけです。そして特に、19世紀から電気を使ういろんな情報技術が世に出て以来それがますます加速されてきた。例えば人間の行動形式を記録することは、昔は絶対にできなかったのです。
ところが今は、能だろうが歌舞伎だろうが、あるいはロックや漫才に至るまで、全部ビデオテープや映画になっている。だから今から1000年、2000年先の人でも20世紀の人間はどんなことをやっていたかが分かりますよね。これは文明的に、ものすごく大きな意義があると思うんです。そういう意味では、情報の記録、伝達、検出、処理、提供ということの中で、特に記録というものの文化的意義はすごいですよね。ビデオデッキなんかは、昔は放送局にしかなかったのが、今はどこの家にもあって多様な情報がテープに記録されている。
実際に、文化というものが育っていく様子をみると、日本の場合を例に取れば、6、7世紀頃に大陸の文化が日本に初めて入ってきてはじめて文字を使うようになり、国家としての制度を身につけるようになった。明治には近代化の波が押し寄せてきて日本が近代国家として歩みはじめる。あるいは戦争に負けて、アメリカ人が入ってきて、金もうけ主義が横行する。そんな、良い面も悪い面もいろいろありますけど、しかしまあ、外来文化というものに触れて、全部そのまま受け入れるんではなくて、それを内在的な力で自分に合ったものを選んで受け入れることによって、日本の文化というものがここまで育ってきたと思うんです。
その受け入れる過程で、情報技術というのは年と共に重要性を増しているわけです。だからいずれは、受け入れる際に自分に合ったものは取り入れて、悪いものは排除していくような、そういう手段として情報技術が使われていけば、日本の文化というものはますます充実されていくでしょうし、個々のコミュニティーがそれぞれそんな能力を持つようになれば、世界中の文明が良い方向で成長していくでしょう。その手段として情報技術は非常に大きな役割を果たすことになるでしょう。
ただ、先程いいましたように、専門化が非常に進んできて、周りのことはぜんぜん分からないような人が増えてくるということを、如何に防ぐかということでしょうね。それと同時に、プライバシー問題、その他の社会的課題を解決できるような能力を身に付けるということが、これからの課題だと思います。」
この特集インタビューの全文は、『学問の英知に学ぶ 第二巻』(ロゴスドン編集部編/ヌース出版発行)の「二十六章 先端科学の情報哲学」に収載してありますので、ぜひ全文を通してお読みいただき、世界中の文明が良い方向で成長していくための情報技術の使い方について考えて頂ければと思います。
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