ピンぼけ哲学

山下 克己
(カメラマン)

 

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(第32回まで哲学雑誌『ロゴスドン』に連載)

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第37回

市場価値が下落した業界

 

 プロカメラマンと自称する者は多いが、撮影だけの収入で生活できる者は何割いるだろうか。少なくとも、ブライダルのスナップカメラマンに関しては、ごくわずかである。撮影会社の社員はプロカメラマンとは言いがたい。それ以外の仕事が重要であったり、求められたりして、純粋に撮影技術だけで収入を得ているとは言えないからだ。
 以前、親しかったブライダルのスナップカメラマンは、結婚を機にこの仕事を辞めた。安定した収入が得られる仕事に転職したのである。収入の不安定なフリー(委託)カメラマン生活に見切りをつけたのだ。年収3百万円稼ごうと思えば、平均して月25万円の収入が必要である。結婚式はほとんどが土・日・祝日だけだ。7月8月という閑散期もあるし、12月後半と1月前半も暇である。それに、撮影機材の修理費用等を考えると、シーズン中は35万円くらい稼がないと、年収300万円に達しないということになる。
 さて、土・日・祝日で35万円稼ぐには1日あたりいくら稼げばいいか。9月でいくと10日あったから、1日あたり3万5千円ということになる。はたして、フリー(委託)カメラマンがブライダル撮影の会社から1日あたりそれだけもらっているだろうか。否と言わざるを得ない。それは何故か。カメラマンの市場価値が下落しているからである。ひどい会社になると、カメラマンを時給900円で募集していたほどである。それは極端ではあるが、(そんな撮影会社には依頼しないことをお勧めするが、)市場価値が下がっていることは確かである。
 その原因は撮影会社の儲け主義にある。カメラマンに支払う経費を押さえることで利益を追求する。実力のあるカメラマンは独立していくから、素人を安易にプロとしてデビューさせる。その悪循環が招いた結果である。さらに、市場にプロと自称する者が溢れる一方、婚期の若者人口の減少で結婚式は減っている。その上、撮影機材の進歩で素人でもうまく撮れてしまうということもある。もはや、ブライダルのスナップカメラマンという職業は真の意味では成り立たなくなっている。他に副業を持つか、それ自体を副業とするしかない。大手の写真会社は特に数をこなすことが必要で、シーズン中は素人とほとんど変わらないデビューしたばかりのプロカメラマンが派遣される可能性が高い。ホテルの写真室専属のプロカメラマンも同様である。私もそうだったが、フリーカメラマンが数回研修をやって専属カメラマンとして撮影しているだけのことである。
 デジタルカメラの時代になり、フリーカメラマン自体の仕事はフィルム時代と比べて急増した。撮影後の作業が大幅に増えたという意味である。だからといって、その作業に対する報酬は雀の涙である。その一方で技術の進歩は著しく、時代遅れの機材を使い続けるわけにはいかないのだ。プロが素人にも劣る撮影機材をいつまでも使用し続けることはできない。結局、撮影の仕事だけで生活する必要のないカメラマンが居残り、本当に実力のあるカメラマンは独立してゆく。彼らは市場価値の下落と独力で戦っていこうとするのである。幕末の衰退しきった藩にしがみついているようなものだと思ってのことだろう。仕事がなくなる危険はあるが脱藩して自由の身となり、思う存分に志を発揮できる環境に身を置いたほうがいいと。市場価値の下落した業界を改善するには、海援隊のように志のある者が集まって革命を起こすしかないのかもしれない。


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