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2.9.3 明るく捉えて新しい路線バス業界の方向性を見出す研究
これまで述べてきた2024年問題とその対応は、最低限の運用を維持していくためのバス事業者の企業努力である。本稿後半では、未来の交通社会を見据え筆者が研究で取り組んできた路線バスの活性化方策を披露していきたいと思う。
(1)電動低床フルフラットバスの試作研究開発と実証運行
筆者は、東京都市大学に異動する前の研究者としての駆け出しの時期を慶應義塾大学電気自動車研究室付けの教員として過ごした。日本の電気自動車研究の第一人者、清水浩教授のご指導を受けながら、電動フルフラットバスの試作研究開発に中心メンバーとして参画した(2009年度環境省「産学官連携環境先端技術普及モデル策定事業」採択)。これは電気自動車の最大の特長であるエコデザイン推進と、真のユニヴァーサルデザイン推進を実現するものである。従来型の電気自動車と異なり、モーターをホイールの内側に分散配置して車室を広くとるインホイールモーター方式を採用した。リチウムイオン電池やインヴァーター等を床下の箱に収める技術も採用した。これらをトータルし「集積台車」技術と呼び、用いることで床上の車室空間をフルフラットかつ広くとることが可能となった。既存のエンジン式ノンステップバスを見ると、最前列のタイヤハウスの上の座席の周辺や中扉より後ろに、雛壇上の段差が出来ている。
慶應義塾大学電気自動車研究室が世に出した電動フルフラットバスは、移動抵抗となる段差をカットし、高齢者や障がいを持つ人にも環境負荷がなく、誰もが利用しやすい車輌になった。環境省の支援の下で、試作車輌の開発が産(いすゞ自動車)・公(神奈川県)・学(慶應義塾大学)の協働で完成したことも当時の大きな話題になった。産学官連携で大型(長さ10m/幅2.5m/高さ2.8m)の電動バスを開発出来た訳だが、その15年後にいすゞ自動車から待望の量産型電動バスが実際に販売となり、実際に街で活躍しているのを見ると嬉しいものである。
電動バスは排気ガスや騒音の心配がない。そのため建物内に乗り入れられ市民のニーズがある早朝・深夜の運行も可能である。駅や空港、大きな病院の中を電動バスが走れば、移動抵抗も小さくなって、ユニヴァーサルデザイン性も面的に向上する。従来にはない新サーヴィスも提供出来るようになる。今後は電気自動車が走る公共建築というのも、筆者の研究室の新しいテーマに加わる。

写真28 試作開発した電動低床フルフラットバス

写真29 電動バスがデパートの中を走っているシーン

写真30 いすゞ自動車から販売された電動バス「エルガEV」
(2)ユニヴァーサルデザイン型の超小型電動バスの試作開発と実証運行
高度経済成長期からバブル経済期に造成されたいわゆるニュータウンエリアは、約半世紀経年した。多摩ニュータウンをはじめインフラと人間の双方の老朽化が問題になっている。住民は一斉に高齢化して、運転免許証返納者、移動困難者が増加している。一方で路線バスは、担い手不足で大幅減便となり、生活者は移動が侭ならなくなっている。そうした中で、ダイヤ式だけでなくオンデマンドバスにも使用出来て、車いすユーザーの乗降や介助容易な居住性等を備えた新しいUDモビリティ(超小型バス)を研究室で考案した。産官学民の協働による実証実験を千葉県白井市(いわゆる北総ニュータウン)で行い、移動困難者の社会活動を容易にして、誰もがフレイルを予防出来る地域のあり方を研究している。
特に本プロジェクトの中心メンバーが、博士後期課程の田中晴美さんである。車いすユーザーの立場で、障がい者のモビリティニーズと課題を明らかにして、安全性・快適性の評価、車いすに乗る際のリスク分析結果等も交え、電動車製造でリードする株式会社タジマモーターコーポレーションの協力の下で試作車輛を仕立てることに成功した。今後は自動運転も視野に入れ、きめこまかい小型車輛でのサーヴィスも必要になり、そのいち早い準備的な車輛研究である。地域ににぎわいを齎し、住民のウェルビーイングを上げる為に必要な車である。

写真31 ユニヴァーサルデザイン型の超小型電動バス

写真32 車いすユーザーでも乗りやすい超小型電動バスのリヤ
(3)路線バスを活かした新しい活用およびビジネスの可能性
・買い物バスの可能性
筆者の研究室では、通常の通勤型鉄道車輛を「走るスーパー=買い物列車」とし移動販売車(移動式スーパー)の電車ヴァージョンの研究を展開し、各方面から好評を得ている。フィールドとする静岡県の伊豆急行沿線には、コンヴィニエンスストアやスーパーマーケットが、生活地の近隣に無い地域がある。そこで、生鮮野菜や日用品等を載せた電車が生活地の最寄りの駅に停車し、停車中の車内で買い物が出来る様にする実践的研究を展開している。この研究はグッドデザイン賞や環境省のグッドライフアワードを受賞した。路線バスで買い物バスを展開し、少しでも収益に繋げたいというバス事業者も増えている。 買い物バスの可能性の追究も価値がある。

写真33 電車を走るスーパーにしている「買い物列車」
・路線バスの営業所によるコミュニティ形成
最近は、モータリゼイション等で路線バス事業が縮小化しており、営業所内の運転士待機スペース等も縮小され、空きスペースが増えている。そこに目をつけて、地域交通の拠点である路線バスの営業所にある空きスペースを地域の活性化に向けた住民交流のスペースとして開放した(東急バス虹が丘営業所にて実施)。この運営を大学生が担うことにより、若年から老年までの多世代が集う賑わいを演出出来るかを実証的に検証した。これによりバス営業所の空きスペースの新たな活用法を確立すると共に、地域活性化を通じて移動需要を喚起し、いずれは新規ビジネスになりうるか(場所のレンタルや活動参加費用等からのマネタイズ)を研究し、バス事業者の経営の一助になるかを筆者の研究室で研究した。
具体的に、アロマストーン作りの体験会、編み物体験会、写真撮影講習会、合唱体験会、 鉄道模型を楽しむ会等と社会人講座等を展開し、バス営業所を通じた地域交流とそのビジネス化活用の可能性を検証し、その有効性を感じることが出来ている。バス事業者も、遊休資産からマネタイズすることへ注目をしている。

写真34 東急バス虹が丘営業所で行った合唱教室の模様
・その他の取り組み
他にも、路線バス車輛をテレワークスペースにして活用して貰う実験、トイレ付きの高級貸切バスを通勤高速バスに活用し収益化出来るかを見る実験、小型の自動運転車輛の実験を東京都市大学と同じ東急グループに位置する東急バス株式会社と連携しつつ進めてきた。路線バスの新しい展開を常に研究している。
(4)路線バス事業活性化に向けて期待される地域の財政支援
路線バス利用促進にあたっては、「信用金庫社会貢献賞」第26回で上田信用金庫が路線バスキャッシュレス化を含む「上田市スマートシティ化計画の推進支援」が、会長賞を受賞した。路線バス運転士のストレス軽減につながる活動で高く評価されている。運転士の給与支援に止まらず、バスの営業所を女性運転士向けに改造する工事の支援、比較的利益を得やすい高速路線バスの持続支援等、地域の財政支援に期待する声も多い。是非この期待に応えられるよう地方自治体、銀行、信用金庫等にも関心を持って支援をして頂きたいところだ。
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