<毎月第1月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)>
2.9.1 2024年問題がもたらすもの
令和時代に入り、路線バス業界にとって最大の問題は、「2024年問題」である。運転士の働き方改革として、退勤から次の出勤までの時間を最低9時間、推奨11時間にするという政策が導入されてから一定の時間が経過している。当然、従前の運用数を満たしていくためには、運転士の数を増やしていく必要がある。ところが新型コロナ禍でテレワークが浸透し、安定的な4月と10月の定期券収入が激減した。更にモータリゼーションが加速した。結果的に路線バス運転士の年収はベテランの50歳代後半でも800万円に満たない水準である。平均年収も500万円に届かない。こうした流れで、将来の家庭設計に不安を感じる30歳代から40歳代の路線バス運転士が激減した。今や転職自体が難しい50歳代以上の路線バス運転士ばかりの事業者が全国的に増えている状況だ。我々はこうした厳しい路線バス事業を認知して、一生活者としても路線バスの利用を増やし維持にも協力していく必要がある。
2.9.2 路線バス事業者の最近の努力
路線バスの事業者は、運転士の労働条件を改善し、新しい人材を確保するために努力している。給与の引き上げやDX時代を受けて、AIを活用した効率化にも着手している。残業時間にも制限がかかり、従来の運行本数を維持することが難しくなっている。すなわち路線バス運転士の確保をこれまで以上に進めるのか、本数を減らす等の対策を採らざるを得ないかの状況に路線バス事業者は追い込まれている。地域の大切な足である路線バスを守る為に、各地で新たな取り組みが始まっている。路線バス事業者の事業の改善を目指した様々な自助努力を見て行こうと思う。具体的には次に挙げる4大ポイントについて見て行きたい。
(1)路線バス運転士の給与や支度金の捻出
(2)路線バス運転士の新しい人材の確保
(3)路線バスの効率的な運行方法の検討
(4)路線バスのキャッシュレス導入による負荷軽減
(1)路線バス運転士の給与や支度金の捻出
路線バス運転士の給与水準が低い点が2024年問題で改めて明らかになった。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、路線バス運転士の年収は、全国の平均で約440万円であった。年齢が高くても入社後すぐは年収が300万円台の後半に止まることも多い。だが勤続年数が長くなると年収も上昇し、若いうちに入社して15年以上勤めれば、30歳代半ばで年収500万円水準になるケースも多い。しかし他の業界に比べると低い給与水準となり離職者が多くなっている。そうした中で、長電バス(長野県)は、移住した路線バス運転士に100万円の支度金を支給して話題となった。こうした取り組みで、路線バス事業者が運転士の確保に奔走するようになった。2025年度に入ってからも支度金提供施策は拡がっている。
長電バスの制度は、路線バスの運転に必要な大型二種免許を持っている人が対象である。しかし免許を持っていない場合でも70万円を支給して、「大型二種免許取得費用全額補助制度」を利用出来るようにしてある。また住居賃貸費用の半額を補助する制度(上限3万円/月)も提供され5年以上の勤務を条件とする。長野県内では大型二種免許保有者が少なく、県外人材の確保を強化する意図があった。このような取り組みは今後も他の地域に拡がるものと予想されている。路線バス運転士の待遇改善に向けた動きは歓迎されるべきであるが、一方で課題もある。既存の路線バス運転士にない新しい人事制度の導入で「社内の公平性」をどう保つかという問題が生じ、事業者側にとっては新たな問題として顕在化している。
(2)路線バス運転士の新しい人材の確保
次は、「路線バス運転士の新しい人材確保」の施策だ。路線バスを運転する為の大型二種免許は、2022年5月の制度改正で取得条件が大幅に緩和されている。以前は「21歳以上でかつ普通免許取得3年以上」という条件であったが、特別な講習を受ければ「19歳以上でかつ普通免許取得1年以上」に変更されている。この改正により若手の路線バス運転士の育成がしやすくなり、最短で19歳から大型二種免許が取得出来るようになった。こうした政策支援が見られるのは進歩である。事実最近では、20歳前後の超若手路線バス運転士が誕生するニュースも増加している。例えば岐阜バス(岐阜県)や豊鉄バス(愛知県)等で、若手の路線バス運転士が育成されて話題になっている。さらにアルピコ交通(長野県)でも20歳の路線バス運転士の候補生を採用して、積極的に育成を進めている状況が報じられている。
2025年度に入り、一部の路線バス事業者では、外国人の運転士や女性の運転士の採用も検討されるようになっている。特に、主婦層で大型二種免許を持つ人材を掘り起こす動きもある。日本人の女性路線バス運転士は、徐々に増えて来ており良い傾向が見られる。しかし外国人の路線バス運転士については、車内サーヴィスの慣習の違い等が課題となり、実際の採用がなかなか進まない現状がある。車内でのトラブル防止のために運転士になる為の日本語レヴェルを引き上げるべきという意見も業界、また監督官庁の国土交通省に根強くある。新たな労働力の確保が進むが、多くの事業者は超若手運転士の確保に手応えを感じ始めている。彼らを定着させて長期的に働いてもらうことが問題解決の一つの鍵となりつつある。
(3)路線バスの効率的な運行方法の検討
三つ目は「効率的な運行方法の検討」についてである。茨城県の高萩市とみちのりホールディングスの茨城交通は、朝夕のラッシュ時には定時定路線の従来型のダイヤ式路線バスを運行し、日中は「のるる」というオンデマンドサーヴィスに切り替えることで、運行の効率化を図っている。のるるは、スマートフォンや電話で利用者がバスを呼び出し、人工知能(AI)が最適な経路とダイヤを自動で作成し、相乗りで運行する仕組みである。終日中型路線バスを使用して、無駄な人件費や燃料費を削減している。こうしたAIオンデマンドバスの導入は各地で進んでいるが、高萩市のように、利用の状況に応じ定時運行とオンデマンドを使い分ける方法は非常に革新的で類例がない。固定の路線を柔軟なオンデマンド式に切り替えることは時代のニーズに応えるものだ。高齢者の乗り換え時の負担を減らすためにも、「ドア・ツー・ドア」のオンデマンドサーヴィスの需要が高まり、さらなる注力が必要だ。
(4)路線バスのキャッシュレス導入による負荷軽減
最後は「キャッシュレス導入による負荷軽減」である。日本の路線バス運転士は、基本的にワンマン運行を行っており、運転だけでなく、ワンマン装置操作、接客までひとりで全て行っておりかなり多くの業務を担っている状況だ。京都のように、観光と日常生活の両方で利用される多客路線では、外国人の両替から入金まで非常に長く時間がかかることが多い。両替を手伝ったり異なるフリーパスを出され、説明したりするために時間が取られる。その結果ダイヤが必要以上に乱れてしまい、運転士サイドにかなりのストレスがたまっていく。
そこで、路線バス運転士の負担を軽減するために、完全キャッシュレスバスの実証運行が国土交通省の主導で進められた。公募で2024年11月から各地で実証運行が開始された。国土交通省も次のような路線で実効性があると考え実証運行を許可した。こうした政策にはキャッシュレス決済環境を整える為の事業者の努力も背景にあり、政策的支援に繋がる。
<2024年度のキャッシュレス実証路線の対象路線>
・利用者が限定的な路線(空港・大学・企業輸送路線等)
・外国人や観光客の利用が多い観光路線
・様々な利用者がいる生活路線で、キャッシュレス決済比率が高い路線
・自動運転等、他の社会実験を同時に行う路線
こうした実証運行が進めば、キャッシュレス決済の運行が大きく進展する可能性がある。自動運転技術やキャッシュレス決済技術をはじめ、路線バスのディジタルトランスフォーメイション(DX)化を少しずつ進めることが望ましい。こうして路線バス事業者の自助努力が少しずつ進み、2024年問題解消が多面的に進められている。方向性も徐々に共有されるようになった。しかし先進事例を知りたいと考える事業者や情報共有を望む中・小の事業者が多いのが実状だ。路線バス業界での自助努力とその成果を共有出来る取り組みも必要で、行政の役割が期待される。また体力のないバス事業者への財政面での公的支援が望まれる。

図2-26 東急バスのキャッシュレスバス。渋谷駅と代官山を結んでいる路線の車両。
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