【連載】

未来都市のつくり方

西山 敏樹
(東京都市大学 都市生活学部 准教授)

 

〈毎月第1月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉

 

『未来都市のモビリティ』

 

アマゾン
紀伊國屋書店
ホンヤクラブ
楽天ブックス

 

 

バックナンバー

HOME

第11回

「3. 未来都市を創る実践を見る」

 

 ここからは,未来都市を考える上での様々な実例を見て未来都市のつくり方を考えたい.
 
3-1. 住宅の未来-エコハウス
 
 エコハウスとは,環境省の「21世紀環境共生型住宅」の略称である.エコハウス開発に向けて,2008年度の公募で全国から20の自治体が選定された.そして,環境省の補助金を基に,各地域の気候,風土,特性を活かしたエコハウスの実現と普及の方策を研究した.
 
 上記の公募事業は,一般に「エコハウスモデル事業」と言われる.2008年当時は,今日のようにSDGs達成までは国際的に言われていなかった.しかし2008年7月の北海道洞爺湖サミットでは,2050年までに,少なくとも世界全体の二酸化炭素排出量を50%削減する目標が共有されている.併せて,2008年7月末には2050年までに国内の二酸化炭素排出量の60ないし80%の削減を目指す「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定されている.
 
 まさに2008年前後は,国内外の二酸化炭素削減に向けて具体的な政策アクションがとられるようになった頃である.しかし,その2007年度の住宅からの二酸化炭素排出量は1990年度と比較して4割以上も増加していた.ゆえに,住宅生産から住み方,改修,リノヴェイション,建て替えまでの住宅のライフサイクルのすべてのプロセスで,低エネルギーおよび低環境負荷が実現出来ないか,という社会的テーマが醸成され,エコハウスモデル事業へとつながった.まさにエネルギー問題✕環境負荷✕住宅という各分野が融合した分野である.
 
 エコハウスの事業公募では,次の内容が期待される成果で公募の評価対象になっていた.
 
1)地域の気候風土や特色,敷地特性に根ざしたエコハウスとはどういうものかを地域の人々が考え,建て,実際に体験することでエコハウスの新たな需要を生み出していけるか.
 
2)エコハウスが永く地域の人々に受け入れられるよう,住み手に負担をかけないものか.
 
3)エコハウスに地域の技術や材料が活かされることで地域の活性化を図ることが可能か.
 
 上記の期待される成果に向けて,次の手法を検討して建築を実践することも求められた.
 
1)     環境基本性能の確保
設計者・施工者・住み手が,断熱・気密・日射遮蔽などの住まいの基本的な性能をきちんと理解し,エネルギーをあまり使わなくても快適に暮らせる住宅を創る.
 
2)     自然・再生可能エネルギー活用
環境基本性能を確保した上で,必要なエネルギーとして自然エネルギー(太陽・風・大地の熱・水・植物等)を最大限利用する.
 
3)     エコライフスタイルと住まい方
地域や将来の時代に合ったエネルギー効率の良い住まい方までを考える.
 
 エコハウスモデル事業のユニークなところは,上記手法の1)や2)のような自然科学的な研究分野だけでなく,その技術の活用で創られたエコハウスならではのライフスタイルとは何か?までを社会科学的に研究するところで,自然科学✕社会科学な部分も特徴的である.
 
 筆者は,研究の一環で20の自治体のエコハウスの実例を視察するチャンスを得た.まず兵庫県豊岡市の実例を見る.豊岡のエコハウスのモデルは,観光地として名高い城崎温泉に創られた.地域性を「コウノトリ舞う里で」,環境性を「風そよぎ光あふれて」,ライフスタイルを「自然と折り合い暮らす」と定めた.日射コントロール装置としての縁側空間,呼吸する壁(土壁外断熱工法),換気・補助暖房装置としての吹抜け空間,自然素材と地元産材の利用,豊岡らしいエコロジカルな景観の創出の5手法で豊岡らしいエコハウスを仕立てた.
 

 

図3-1 豊岡市のエコハウスの外観(1).木・土・紙等の自然素材を多用し可能な限り県産木材を活用し,豊岡らしいエコロジカルな景観を創出.
 

 

図3-2 豊岡市のエコハウスの外観(2).伝統的な民家の形態を継承.切妻平入りの瓦屋根や越屋根、格子等をモチーフとした外観で周囲の景観との調和を図る.
 

 

図3-3 豊岡市のエコハウスの内観(3).夏の日差しを遮る縁側空間や西日除け用の格子戸を設けている.冬は日射を最大限取り入れる縁側のすのこ庇のライトシェルフ効果で光を部屋の奥まで導く.
 

 

図3-4 豊岡市のエコハウスの内観(4).夏季は,吹き抜けの上部にたまった熱を越屋根から逃がすことで排熱換気を促す.冬季は,この暖気を1階床下に送り,窓際に放出することでコールドドラフトを和らげる.
 

 

図3-5 豊岡市のエコハウスの内観(5).多湿な気候に適応するため,吸放湿効果のある土壁で空調に頼らず湿度をコントロールする.


HOME
株式会社ヌース出版
107-0062 東京都港区南青山2丁目2番15号 ウィン青山942
(TEL)03-6403-9781 (E-mail)logosdon@nu-su.com

Copyright © Nu-su Publishing Inc. All Rights Reserved.