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6.1 活動の概略
2019年度に,ヤマハ発動機,飛騨高山大学連携センター,東京都市大学が連携し,立ち乗り型のラストワンマイルモビリティの試用評価実験をJR高山駅周辺で実施した.今回評価試験を行った機材はフロント2輪,リア1輪の3輪構造の小型立ち乗り型である.3輪バイクの派生・応用型の機材で,少々の訓練で多くの人々が安全に乗れるものである.本発表では,評価結果についてふれながら観光や都市生活シーンでラストワンマイルモビリティを活用する為の社会的方向性を述べる.
6.2 実証実験の流れ
筆者らは,2019年11月9日-10日の2日間で実証実験を公道で初めて実施した.高山市から協力を得て,高山駅前の広場を発着場所に一般の方に乗って走って貰った.自転車や歩行者が行き交う公道走行の課題,観光での可能性を検証した.
又,2019年11月26日に高山市都市政策部や高山商工会議所,飛騨・高山観光コンベンション協会,飛騨高山大学連携センター,高山警察署の関係者に集まって貰い,今回の車輛の可能性等をテーマとし,グループインタヴィューを実施した.以下では,誌面の都合で上記結果の纏めを述べる.
6.3 試乗した市民及び協議会参加機関の意見に基づく立ち乗り型モビリティの普及戦略
試乗した市民及びグループインタヴィューの参加機関の意見を纏めると,次の様に整理される.
(1)ラストワンマイルモビリティの普及戦略
一般市民,協議会参加機関の意見をまとめると立ち乗り型のラストワンマイルモビリティの普及はシェアリングによるクローズドな観光地(里山等)での利活用を第一段階にすることが現実的であると判った.具体的には,高山支所地域の里山走行や乗鞍のような自然を楽しむ移動手段として活用をする案が現実的である.基本的に,観光地のクローズドな運用で有用なモビリティとしてのブランドを確立し,市街地での活用に向け,並行して行政や警察等の理解を得ながら専用レーンの確保等の制度面を拡充して普及・拡大を狙うことが現実的である.他には企業内の駐車場からオフィスの移動,学校での移動等クローズドな運用も想定された.都市計画の制度的に,専用レーンの新設や免許の緩和等の改革に,多大な時間を要す.
(2)車輛改善の方向性
車輛自体については,LMW (Leaning Multi Wheel = モーターサイクルのようにリーン(傾斜)して旋回する3輪以上の車輌)のテクノロジーを採用している.しかしこの新しい感覚に慣れない試験参加者もおり,段差に関しては,一部の利用者が衝撃(路面入力)による不快,衝撃(路面入力)による車輛の揺れに起因する不安感及び怖さを指摘している.段差でのバランスのとり方の難しさや段差の衝撃の感じ方,乗り越えの難しさ等が不安感や怖さにつながり,今回の立ち乗り型車輛への否定的反応に,上記の点が影響する可能性もある.
またトレーニングをしてからのシェアリングという形になっており,トレーニングしている時の揺れ,段差が「怖い」という先入観になりかねないという声もあった.本状況ではトレーニングへ常にスタッフを投入する必要が生じて,気軽なシェアリングにも進まない可能性がある.それに付随して車輛をどう安定させるか,安定感という話から4輪にする意見も出た.インホイールモーターで,トルクを出すことに資する考え方である.段差等を中心にして,「怖さ」をどの様に緩和していくかが,車輛改善の最大の課題であると判った.
さらに,メカニックな色が強いことの緩和と女性にうける柔らかいデザインの導入,実用を考えたサイズ的に横幅が広いことの改善等が協議会参加機関から課題として指摘された. 他に,観光等で最低限の荷物を運べるように,一般市民からも籠をつけることを望む意見が出された.一般市民も今回の車輛はシェアリングで活用するものと多くの人が考えており,気軽なシェアリングに向けても,上記の各要件は改善に向け大変重要になる.
図1 今回用いた機材(ヤマハ発動機が製作)
図2 実証走行の様子
(3)車輌以外の安全対策,周囲から見る安全対策
特にヒヤリング調査から,都市基盤の中で今回の立ち乗り型モビリティを歩行者・自転車・自動車と共存させていくことはすぐには難しいという意見が顕著であった.車輛の普及に向けて,専用レーンの必要性を感じている回答者が,ふたつの調査でいた.混合交通の都市部では,専用レーンを作らないと今の時速8-10キロから上げるのが難しい.混合交通での歩行者の安全性保護を意図して,専用レーンの必要性を感じている人もいた.
但し行政が都市計画道路,大きな道路を造るというのは,よほどのことがない限りやらない時勢になっている.現実的には,京都府京都市のように既存の歩道を自転車用と歩行用にわける事例があり,この自転車用のレーンを立ち乗りの車輛も兼用できる様にすることが,目下現実的と言える.
京都の五条付近では,歩行レーンとの境界部が若干のポールだけになっており,それを適用しただけでは歩行者との干渉が懸念材料となる.植栽等で,立ち乗り型車輛及び自転車のレーン,歩行レーンと明確に分けて,相互の干渉がないように性を担保していく上で,極めて重要である.京都市の例のように,十分な歩行幅があるところなら上記のような改善が可能であり,立ち乗り型車輛の普及に資する.また,立ち乗り型車輛の訓練についても意見が二つの調査から出た.今回15分程度の訓練の後に実証試験で行動に出てもらっているが,訓練と許可の対応をする人間の手間及びコストもある.免許制という考えもあるが,これは利用者側の安全性担保につながるものの,面倒さが,立ち乗り型車輛を敬遠させる要因にもなる.
気軽で安全に利用して貰う為にも,専用シミュレーターでの無人訓練・許可証の発行・許可者の認証の一連のシステムを検討することも現実的である.さらに,多く要望のあるシェアリングでの利用では,車輌故障や何らかの要因による充電量の急減少等にも,対応できる様にする必要がある.緊急時対応が出来るよう,スマートフォンで車輌貼付のQRコードを読み取れば緊急時のその場に最適な支援体制が判るシステムは,有効な一案である.都市内ならヤマハの強みを生かしたバイクショップのネットワークでの支援体制の構築,又給電施設があるガソリンステイション等との連携も,一般の利用者には分かり易いシステムである.
特に通行する歩行者,自転車,横切る車,インフラの観点を交えた周囲の安全対策では,電動故の静音性や存在感への気づきが難しいこと,混合交通の中での新しい乗り物ゆえの不安感等の解消が問題である.これらの解消を経て,都市に溶け込む策を今後検討する事が課題である.ユニヴァーサルデザインの観点を交えると通常の都市生活でのヒューマンインタフェイスと異なるシステムの導入は避けた方が良い.危険を知らせる上では,多くの生活者が慣れたシステムの導入がベストであり,通常と異なるシステムだと認知的なミスを起こしかねない.故に,自転車の様なベルや車の様なウインカーをつける等の策で立ち乗り型車輛の動きの視覚化を図る方法が,効果的な案となる.
6.4おわりに
上記が実証試験の総括のポイントである.今回の高山市の実証試験で,改めて公道試験を経ても生活者は愉しい乗り物として総じて高く評価している.普及への課題は多いが,新しいラストワンマイルモビリティの可能性は残されている.関係機関も同様に愉しさを指摘している.普及させる上でのポイントの上記各事項を立ち乗り型モビリティの愉しさを担保しながら克服していきたい.
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