〈毎月第1月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉
(3)車輌以外の安全対策,周囲から見る安全対策
特にヒヤリング調査から,都市基盤の中で今回の立ち乗り型モビリティを歩行者・自転車・自動車と共存させていくことはすぐには難しいという意見が顕著であった.車輛の普及に向けて,専用レーンの必要性を感じている回答者が,ふたつの調査でいた.混合交通の都市部では,専用レーンを作らないと今の時速8-10キロから上げるのが難しい.混合交通での歩行者の安全性保護を意図して,専用レーンの必要性を感じている人もいた.
但し行政が都市計画道路,大きな道路を造るというのは,よほどのことがない限りやらない時勢になっている.現実的には,京都府京都市のように既存の歩道を自転車用と歩行用にわける事例があり,この自転車用のレーンを立ち乗りの車輛も兼用できる様にすることが,目下現実的と言える.
京都の五条付近では,歩行レーンとの境界部が若干のポールだけになっており,それを適用しただけでは歩行者との干渉が懸念材料となる.植栽等で,立ち乗り型車輛及び自転車のレーン,歩行レーンと明確に分けて,相互の干渉がないように性を担保していく上で,極めて重要である.京都市の例のように,十分な歩行幅があるところなら上記のような改善が可能であり,立ち乗り型車輛の普及に資する.また,立ち乗り型車輛の訓練についても意見が二つの調査から出た.今回15分程度の訓練の後に実証試験で行動に出てもらっているが,訓練と許可の対応をする人間の手間及びコストもある.免許制という考えもあるが,これは利用者側の安全性担保につながるものの,面倒さが,立ち乗り型車輛を敬遠させる要因にもなる.
気軽で安全に利用して貰う為にも,専用シミュレーターでの無人訓練・許可証の発行・許可者の認証の一連のシステムを検討することも現実的である.さらに,多く要望のあるシェアリングでの利用では,車輌故障や何らかの要因による充電量の急減少等にも,対応できる様にする必要がある.緊急時対応が出来るよう,スマートフォンで車輌貼付のQRコードを読み取れば緊急時のその場に最適な支援体制が判るシステムは,有効な一案である.都市内ならヤマハの強みを生かしたバイクショップのネットワークでの支援体制の構築,又給電施設があるガソリンステイション等との連携も,一般の利用者には分かり易いシステムである.
特に通行する歩行者,自転車,横切る車,インフラの観点を交えた周囲の安全対策では,電動故の静音性や存在感への気づきが難しいこと,混合交通の中での新しい乗り物ゆえの不安感等の解消が問題である.これらの解消を経て,都市に溶け込む策を今後検討する事が課題である.ユニヴァーサルデザインの観点を交えると通常の都市生活でのヒューマンインタフェイスと異なるシステムの導入は避けた方が良い.危険を知らせる上では,多くの生活者が慣れたシステムの導入がベストであり,通常と異なるシステムだと認知的なミスを起こしかねない.故に,自転車の様なベルや車の様なウインカーをつける等の策で立ち乗り型車輛の動きの視覚化を図る方法が,効果的な案となる.
6.4おわりに
上記が実証試験の総括のポイントである.今回の高山市の実証試験で,改めて公道試験を経ても生活者は愉しい乗り物として総じて高く評価している.普及への課題は多いが,新しいラストワンマイルモビリティの可能性は残されている.関係機関も同様に愉しさを指摘している.普及させる上でのポイントの上記各事項を立ち乗り型モビリティの愉しさを担保しながら,克服していきたい.
7.おわりに-未来都市のつくり方の総括
これまで述べた来たように,未来都市を考えて創り上げる為には,柔軟な発想こそが大切である.
イギリス由来のスペキュラティヴデザインを真剣に捉えることが重要である.目先のことだけを考えず大局的かつ長期的視座に立ち,筋の良い未来都市のあり方を定め,そこに近づく為のアクションをとりつつ,未来に迫ることが必要になる.
まずは,未来都市を創るための8つの考え方に基づき妄想でも良いのであるべき未来都市の姿を検討し,筋の良い未来都市の姿を割り出す作業が大切である.未来都市の妄想過程で「複数の分野を跨ぐ知の創出」,「複数分野の隙間に位置する知の創出」,「複数分野が融合した知の創出」,「複数の分野に共通する知の創出」,「複数の分野を包括・統括する知の創出」,「複数の分野の最先端の知の創出」,「常識を疑いながら「逆の方法」という知を創出」,「他の分野の方法を自分の分野にあえてあてはめてみる思考実験」が重要である事を本書では説いてきた.筆者は,モビリティやユニヴァーサルデザインを専門領域としながら,行政機関や民間企業のイノヴェイション創出の指導などを推進してきた.研究者として現場に入ってみると,あまりにも目先ばかりを見ており,とても危うく映る.我々はそれぞれの活動で未来都市をつくり上げる使命を持つ.それゆえ,未来のあるべき姿からのバックキャスティングが必要であり,上記の8つの知の思考実験が大切となる.思考実験が弱いのも日本人の特徴である.この打破が必要だ.
併せて,ひとつイノヴェイションを起こしそれで満足するのも日本人の特徴で,成長戦略を検討するプロセスではとても危険である.むしろイノヴェイションをいくつもかけあわせ,従来に無い知を紡ぎだすことが大切である.この本を書いている間にも,筆者の研究室では,図7-1のようなジャズトレイン(宇都宮LRTの車内でジャズ演奏会を行い,ジャズのまち宇都宮のブランディングを推進する活動)や図7-2のようなミズベ・バス・ベース(バスをモバイルスペースとして活用して多摩川沿いに置き,テレワークブース,大学出前講義スペース,地域交流スペースとして活用する)等の新しい未来都市創造活動が,実践的に学部生主体で生まれている.若い学部生諸君でも,未来のあるべき姿を考えながら,バックキャスト志向で未来に近づこうとしている.まさに従来に無い都市の創造活動を学部生でも行えている.読者の皆様にも是非学部生諸君に負けないで,未来都市を創り上げる活動を精力的に行って欲しいと願い.
図7-1 ジャズトレインの様子
図7-2 ミズベ・バス・ベースでの車内出前講義の様子
―了―
Copyright © Nu-su Publishing Inc. All Rights Reserved.