【連載】

未来都市のモビリティ

西山 敏樹
(東京都市大学准教授)

 

〈毎月第1月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉

 

 

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第32回

「車いす型次世代トランスポ-タの研究(1)」


1.   はじめに

 近年,高齢者・障碍者の人口増加に伴い,多様な属性の人々の日常移動を円滑に支援する方策の構築が,重要な社会的課題になっている.平成初期以降の長期的景気後退や公共交通事業の衰退などが重なり,インフラストラクチュアの整備に止まらず,「移動支援機器のインテリジェント化(高性能化)」で移動制約からの解放を検討する逆転の発想も重要である.特に本研究では,車いす型の次世代高性能トランスポ-タiBOTTMを用いた国内での実証走行を通して,ユ-ザのQ.O.L.の変化を追うと共に日常生活を効果的に支援するためのiBOTTMの改良コンセプトや普及に向けた生活環境側の整備要件を提案する.

 

2.   本研究の社会的背景

 2.1.  次世代高性能トランスポ-タiBOTTMの開発
 iBOTTM (INDEPENDENCE iBOTTM 3000 Mobility System)は,ジャイロセンサおよびコンピュ-タソフトウェアで制御される,車いす型のトランスポ-タである.  
 アメリカSegway L.L.C.が販売する次世代型スク-タ「Segway Human Transporter」を開発したDean Kamen氏が考案した.最大の特徴は,ジャイロセンサとコンピュ-タソフトウェアの有効活用で,従来の車いすで走行が困難であった芝生,砂浜,寺社の庭園や参道のような条件の悪い路上を円滑に移動可能にした点である.
 また,階段昇降や10cm程度の段差を乗り越えられることも注目点である.標準車いすモ-ドの他,店などの棚上に手が届く「2輪モ-ド」,未舗装地の走行を支援する「4輪モ-ド」や階段の昇降に資する「階段モ-ド」がある.米では,安全性試験と臨床試験を経て2003年8月に医療用器具として食品医薬品局の正式認可を受けた.
 高さ調整の状況が図1,階段昇降の状況が図2である.

 2.2.  国内でのQ.O.L.に与える効果の検証の必要性
 日本の現行制度上,iBOTTM発売に米国のような許可は不要である.しかし,日本国内での障碍多様化や米国と日本の生活環境の格差を考えると,アメリカ国内での安全性テストと臨床テストの結果をもって,日本でのiBOTTMの有効性を安易に主張することは早計と言える.
 特に,iBOTTMのメインユ-ザになる障碍者や高齢者の多数は,これまでも車いすなどの移動支援機器の効果に大きな関心を寄せている.一方,iBOTTMと各種社会環境との親和性について検討を始める時期になっている.iBOTTMのような機器が,その威力を存分に発揮できるような環境整備の要点を明確にする研究の必要性も高い.
 まとめると,現行社会環境を念頭に置いたiBOTTMの対社会関係性を評価し,その対社会関係性を高めていくための環境整備要件を抽出する研究,および,iBOTTMが日常生活の質(Q.O.L)に与える多様な効果の明確化を目指した研究が,今後の移動環境整備に向け重要である.

 2.3.  機器の高機能化による移動支援の必要性
 高齢社会化や障碍多様化で移動環境のユニヴァ-サルデザイン推進が重要な社会的課題になっている.しかし,モ-タリゼイションの進展で公共交通利用者が年々減少している.旧運輸省発行『平成12年度運輸関連企業設備投資動向調査』によれば,将来に向け鉄道・バス事業のインフラストラクチュア整備投資金額の減少が,確実視されている.行政の税収も不況により減少が確実である.
 インフラストラクチュアの整備は重要である.しかし現実的制約を念頭に置くと,逆転の発想をして移動支援機器の高機能化で,障壁を克服する方向性も重要である.
 我々は,インフラストラクチュアのユニヴァ-サルデザイン化に機器や部材の高性能化を加えて,ユニヴァ-サルな社会環境を早期に創出する「ユニヴァ-サルソサエティ」推進戦略を提案しており期待も集まりつつある。

 

3.   本研究の目的

 本研究では,上記背景より次の各点を目的に設定した.
(A) iBOTTMが下肢障碍者のQ.O.L.に与える効果の明示
 iBOTTMのメインユ-ザになりうる障碍者及び高齢者が関心を寄せ,購買の意思決定等の参考にする「iBOTTM が日常生活に与える効果」の明確化を目指すことにした.
(B) iBOTTMの現行国内社会での対社会関係性の明確化
 iBOTTMを現行社会環境に普及させたとして,どの程度社会に馴染むのか,情報を整理することが重要でありiBOTTMの対社会関係性の考察も本研究の目的に据えた.
(C) iBOTTMの国内普及に向けた各種社会的課題の抽出
 iBOTTMの対社会関係性などを通して,iBOTTM自体の改良指針と,iBOTTMが国内で十分効果を発揮できるようにするための外部要件の課題について,明示を目指した.

 


図1 iBOTTM の高さを調整した状況

 

図2 iBOTTM による階段昇降の状況


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