
〈偶数月第3月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉
K ユングはそれを普遍的あるいは集合的無意識と呼んでいます。万人が共通する夢を見るのはなぜか。世界各地に非常に類似する神話が存在するのはどうしてか。・・・と、ユングは人と人との間を繋ぐ何かしら意識を超えたものがあると考えたわけです。そのためにユングは非科学的であるとよく言われます。客観的に対処し得る部分を超えてますからね。
M しかし小説なんてそれを信じてなければ書いてられません。物語は時空を超えて通じるものですから。「昔々ある所に・・・」こんな極めて曖昧な表現だからこそ普遍性を持つのです。
K にもかかわらず、まったく違った解釈、誤解が生じることも間々ありますしね。それに現代のように核家族化した日本の社会をこれまでと同じように考えていいのか? 今の若い世代の人たちは、むしろ西洋的発想に近いようにも思えます。
M つまりは、人間は先天的な動物なのか後天的な動物なのか、という問題にいきつきますね。
K とおっしゃる三島さん御自身が、その問題をかなり重視しているということでしょう。そこに三島さんという人物の解釈の手がかりがあるのかもしれませんね。それに三島さんは作品の上ではたいへん日本文化を重んじてらっしゃるようなのですが、御自身の生活スタイルや行動パターンはとても西洋的なものに感じられます。そんなところが一部の読者を混乱させているのかもしれませんね。・・・いや、それもひとつの狙いだったりして。
M (苦笑)なるほど、それが心理学的分析というものですか。ではここらで、K博士に私の解剖を始めてもらいましょうか。
K いえいえ、初めてお会いして、少し対談したくらいでひとりの人物を分析するなんて、とてもできませんよ。特に三島さんは作家である上にボディビルをやられたり・・・。
M ボクシングや空手もやりましたよ。剣道は五段です。それに映画の主役を務めたこともあります。
K そうでしたね。(笑)でも、なぜそういう多面的な行動をとるのかということ、そしてそれぞれの行動の特徴なんかを探るのが心理学でしてね。まずどうしてそういう生き方をするんだろうかと考えるわけです。そして先ほど言われたように、先天的後天的ということへのこだわりもひとつのキーワードと見ていいでしょう。・・・これはこうしてお会いする以前に、即ち三島さんの作品から想定したものですが、性格的傾向として「対抗同一性」というのを考えてみました。
M 対抗同一性? うーむ、詳しく説明してください。
K 例えば社会的視野で見ますと、少年たちの暴走行為や何とか族と称するグループの出現、あるいは新興宗教の誕生などもそれに入れていいと思うんですが、要するにこれらは既成の社会の大多数に対する少数者の反抗であり、また自分たちの存在の主張でもあるわけです。で、これを個人に当て嵌めてみますと、自我同一性の支障による対抗同一性と呼べると思うのです。理想的な自分と現実の自分とのギャップを、社会的立場で再構築するとでも言いましょうか。
M なるほど。肯定的な自我同一性が獲得できなかったために生じた病的反応であると。
K いえ、病的とは言ってません。そもそも自我同一性とは、エリクソンによりますと「自分が他ならぬ自分として、生き生きとした生命的存在として生きているという実存的な意識・・・世界との一体性を持つという実感である」というものです。ですから対抗同一性というのは、その世界との一体感が得られなかった時に、それとアンチな世界に属することで自我を守ろうとする、一種の自己防衛的手段と考えていいと思います。
(つづく)
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