【連載】

漫画哲学

村田 唯

 

〈2、5、8、11月の第2月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉

 

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(第63回まで哲学雑誌『ロゴスドン』に連載)

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第73回

『モテキ』

 
 深夜にドラマ「モテキ」を何気なく見た時には興味を持てなかった。「セックスしたいよ」「お前、彼女と寝ただろう!」等の台詞を聞いて見るのをやめてしまった。ところが、なんとこのドラマの評判がよく、ギャラクシー賞(優れたドラマに与えられる)を受賞した上、今秋映画化されたというではないか!改めてドラマの再放送を見たり、原作漫画を読んでみたところ、なるほど面白い。聞けばこの作品、今までモテたことがなかった人と、それなりの恋愛経験を経て来た人とでは、感想が全く違う話題作らしい。「身につまされる」と嘆く人。「この作者は、本当にモテたことのない者の気持ちをわかってない」と怒る人。「昔こういうこと、あったなあ」と過去を思い出して楽しむ人等々。
 三十路間近のモテない男・藤本に、ある日知り合いの女の子から次々と連絡が入り「モテキ」(異性にモテまくる時期)が始まる。経験不足の上に、性格も卑屈で自信のない藤本は、戸惑いながらも処女系・肉食系・ミステリアス系等、タイプが違う女性達に翻弄されるが、なかなか念願のセックスにまでたどりつけない。好きな音楽や漫画に慰められ、勇気をもらいながら、懸命に女性達や自分の本心に向き合おうとする。やがて、だんだん分かってくる。藤本もまた、彼女達の恋愛劇の対象のひとつであったことに。
 藤本は「30歳近くなるのに女性と交際したこともなく、世間並みの成長をしないまま大人になってしまった」という設定だ。「こんなことは20代までに経験するべき」という声もある。しかし、藤本が素直に悶える姿には、他人事とは割り切れない必死感がある。考えてみれば、昔恋した時に疑問に思った事の答えは分かったと言えるだろうか? 相手の気持ちは理解できるようになっただろうか? 
 自分にとって居心地のよい場所や、守ってくれる物は、皆よく分かっている。そこから一歩踏み出し、他人に向かって、傷つきながらも失踪する季節。それが「モテキ」なのだ。


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