【連載】

漫画哲学

村田 唯

 

〈2、5、8、11月の第2月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉

 

『人生を考える漫画百選』

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(第63回まで哲学雑誌『ロゴスドン』に連載)

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第122回

『ミワさんになりすます』

 
 他人になりすます。昔話や歌舞伎等では昔から変身や変装、また正体を隠して世界に入り込むなど入れ替わりのお話はよくあった。目的はそれぞれ違うが、自分以外の人間になるということは普遍の夢・願望の一つなのかもしれない。その功罪は?
 映画が大好きなフリーターの久保田ミワ(29)は、大ファンの俳優八海崇(54)が家政婦を募集していることを知って屋敷を訪ね、その日から勤務するはずだった美羽さくらが事故にあって救急車で運ばれるところを目撃する。そこでマネージャーに人違いされ、そのまま家政婦として働くことになる。憧れの八海に接することができて感激する半面、求められていたスーパー家政婦ぶりからは程遠い上に、紹介所から職員が来たり、本物の美羽さくらが現れたりと、ヒヤヒヤが続く。しかし映画を愛してやまないミワの想いが八海の心に響き、また時には手助けにもなり、気に入られてしまう。自分が本物の美和サクラではないと告げたら、八海はどう思うのだろう? 興奮と不安が交錯する。
 好きで夢中になれるものがあることはいいことだが、好きすぎると苦しい思いをすることもある。例えば実際会ってみたらイメージと違った、その人が結婚してしまった、金と体力を使いすぎてしまったなど。一歩間違えればミワのように危ない橋を渡ってしまうことも。しかし、引っ込み思案だったミワが、積もって来た知識をもとに憧れの人に気に入られ、役に立ち、どんどん積極的になって行く姿は見ていて元気づけられる。また、引退を考えるようになっていた八海がミワによってやる気と輝きを取り戻していくのが何だか嬉しい。
 心から好きだと思えるものを大事にしていくことは、自分を大事にすることでもある。これからはAI の時代だと皆が言う。ヒトらしく、心が喜ぶことをして生きたい。


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