【連載】

漫画哲学

村田 唯

 

〈2、5、8、11月の第2月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉

 

『人生を考える漫画百選』

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(第63回まで哲学雑誌『ロゴスドン』に連載)

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第105回

『孤独のグルメ』

 
 中年男が仕事で訪れた町で独りでひたすらご飯を食べる、というシンプルな内容なのだが、愛され続け、2012年から始まったテレビドラマは2019年秋でSeason8となった。韓国や台湾等の海外でも大人気だ。(原作・久住昌之、作画・谷口ジロー)
 「時間や社会に束縛されることなく幸福に空腹を満たす時、束の間、自分勝手になり、自由になる。誰にも邪魔されず、気を使わず物を食べるという孤高の行為。この行為こそが現代人に平等に与えられた、最高の癒しといえるのである」というテーマが、現代人の心にハマッた。確かに人と一緒の食事は相手に気を使うし、話をしながら食べ物の美味しさに集中できない感はある。この漫画の主人公・井之頭五郎も、店の人や雰囲気や他の客の様子を観察しながら、食事に没頭している。
 この作品の魅力は、五郎の食事実況中継(独白)だ。「初対面なのにすぐうち解けてくるような味だ。確かに異国味なのに、なんともちょうどいい味つけ(汁なし担々麺)」「カレーは強い。どこの国も誰と戦っても、最後は自分の世界に引きずりこんで勝つ。そして俺もこの香りに抗えず、気が付けばがっついている」「この奥深い味は、一朝一夕に出来るもんじゃない。俺は歴史を食ったのだ(うな丼)」「こういうの好きだな、シンプルで。ソースの味って男の子だよな(カツサンド)」「玉子はいつも俺の心を少しだけ優しくする」等。1食ごとに沢山の感性豊かな名セリフが次々と生まれる。五郎の選ぶメニューの組み合わせや食べ順にも、独自のセオリーがある。どんどん箸が進んでいくテンポも心地いい。
 食事にも起承転結がある。どの皿で始まり、盛り上がり、変化を楽しみつつ、エンディングに向かうか。食べることは、オリジナルの物語を作ることだ。孤独は、じっくり味わうためのよき調味料となる。 濃すぎず、薄すぎず、程よく味わえたら、幸せだ。


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