【連載】

漫画哲学

村田 唯

 

〈2、5、8、11月の第2月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉

 

『人生を考える漫画百選』

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(第63回まで哲学雑誌『ロゴスドン』に連載)

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第128回

『魔法使いサリー』

 
 アニメの印象が強いが、原作は横山光輝(代表作『鉄人28号』『バビル二世』『三国史』」)の漫画だ。1966年から1968年にアニメが放映され、その後何度も再放送されていたので、当時少年・少女時代を過ごした人は皆観ていたと言っても過言ではない。筆者も同世代の女性達と「サリーちゃんでこんな話があったよね」「忘れられない話は?」という話をたまにすると、心から少女に戻れてとても盛り上がる。
 アニメ放映が終ってからも、寝ぐせのついた頭を「サリーちゃんのパパみたい」と言ったり、タレントの山田邦子が最終回のシーンを演じて笑いを取ったりと、万人の共通の思い出の作品だった。「マハリクマハリタ」という呪文で始まる主題歌もずっと歌い継がれている。
 魔法の国から人間界にやって来た小学生のサリーと、サリーの正体を知らない同級生と、弟として人間界に遣わされたカブ達が繰り広げる様々な物語。実は原作本は1冊のみだ。そこからテレビアニメが100本以上も作成された。
 放映当時は、テレビでの子供向けアニメや戦隊物などが創成期。作成者達も自らの夢やロマン、メッセージをお話に秘めたのだろう。「ウルトラマン」が世の中の風刺や問題提起、哲学的な内容を含めた物話を放映していたように、『魔法使いサリー』もちょっと不思議で印象に残る話が多かった。
 筆者のお気に入りは、カブが魔法をかけて人間のように働くようになった雪だるまが火事に遭遇し、汗をかきながら消化してサリーたちを助け、最後は炎で溶けてしまったという話だ。悲しい結末に衝撃を受けつつも、雪だるまの純粋で必死な表情が忘れられない。
 ネットやAIで便利になった現代は、当時から見たら魔法のように思えるのかもしれない。しかし、不便で、非力だった子供の頃や若い頃の話をしていると暖かい気持ちになる。
 アニメの最終回は「ある日突然、あなたの学校に、可愛い目をした女の子が入ってきたら、それがサリーちゃんかもしれません」というナレーションで終わる。今の世にもサリーちゃんは現れて、魔法の言葉を唱えて愛と希望を与えてくれるだろうか。沢山の物語を思い出しながら、今夜は眠ろう。 


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