【連載】

漫画哲学

村田 唯

 

〈2、5、8、11月の第2月曜日更新(祝日の場合は翌営業日更新)〉

 

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(第63回まで哲学雑誌『ロゴスドン』に連載)

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第66回

『深夜食堂』

 
 深夜に起きているのが筆者は嫌いだ。学生の頃は昔の映画や古いドラマの再放送等を見て楽しんでいたが、今は眠らずにいると、よくない事を考えたり悩んだりしてしまうので、できれば早く寝てしまうことにしている。
「深夜食堂」(作・安部夜郎)は、繁華街の小さな食堂で繰り広げられる人間模様を描いた漫画だ。店は、深夜0時に開店する。メニューは豚汁定食だけ。でも、マスターは「注文してくれりゃ、あるもんなら何でも作るよ」と、リクエストした料理を出してくれる。客は、一風変わった人ばかり。ヤクザ者、ストリッパー、売れない役者、アイドル等。サラリーマンやOLも来るけれど、やはりどこか訳ありだ。色々な背景を持った客達が、心と胃袋を満たしにやって来る。赤ウインナー、甘い卵焼き、猫まんま……。それぞれの料理の味には、ひとりひとりの思い出と今が混ざり合っている。
 夜中だからこそ食べたい一品。深夜だからこそ打ち明けられる話がある。生きるということは仮面をかぶるということだ。会社で、家で、心に蓋をして他人に接しなくてはならない場面が多々ある。時には自分に対して嘘をつくことも。そんな昼間の様々な不自由さから開放され、素に戻れる深夜。食堂でおいしい料理を味わうのに、仮面はもういらない。
「もっとこうなりたい!」「本当はね……」「ふと寂しくなるんだ」。本音がこぼれ出す。だからといって今すぐ仕事を辞めて、新しい事が始められるわけでもない。夢中になれる人やものに、簡単に出会えるわけでもない。ならばもう、肩肘はらなくても、自分だけでこっそり好きな時間と空間を持てればいいのかもしれない。ため息の向こうにある安堵感。
 深夜食堂は、目を閉じて息を緩めてもいい、人生の休憩地点なのだ。たまには夜、すぐに寝ないで、今の不自由感を逆に味わい、夢を見直してみるのもいい。いつか街の片隅で深夜食堂を見つけたら、入ってみようと思う。


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