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(第63回まで哲学雑誌『ロゴスドン』に連載)
近頃目にする漫画や映画やドラマで欠かせないテーマとなっているのが、「復讐」だ。
傷つけられたり家族を殺されたりした主人公があの手この手で復讐をする。古くからあるテーマではあるが、絶えることがない。
この漫画(作・黒田しのぶ)も平凡な女子高生だった灰原硝子(はいばらしょうこ)の復讐を描く物語だ。
メイク系のブロガーだった硝子は、その活躍を妬んだ海崎藍里の罠にかかり、彼女の仲間に暴行され、その動画がネットで拡散されるという酷い事態に。更に放火により家も家族も失うはめになってしまった。消せないデジタルタトゥーを刻まれた硝子は数年後に正体を隠して加害者達に近づき、様々な復讐をしかけて相手を社会的に抹殺して行く。
硝子を罠にはめた奴等は本当に許せない! 彼らがうちのめされる姿を見るとスカッとする。が、復讐を成し遂げた後の、怒りと哀しみをかみしめている硝子の表情が痛々しい。復讐が全部終わったら何を心の支えに生きて行くのだろうか。
誰かに傷つけられ、一生言えない傷を負ってしまったら「絶対許さない! 何年かかってでも復讐してやる」という気持ちになるのは理解できる。頭の中は憎悪感で一杯になり、傷つけられた記憶が消えることはない。
「復讐するは我にあり」とは新約聖書の「愛する者よ、復讐するな、ただ神の怒に任せまつれ。録して『主いい給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん』とあり」から来ている言葉で、「復讐はあなたがすることではなく、神が行うこと」という意味だという。
時がたてば、憎い相手との関係が変わるかもしれないし、環境が変わるかもしれない。今の状況がずっと続くとは限らない。イヤなことは忘れて穏やかに生きた方がいいのはわかってはいるが、なかなか気持ちを切り替えられないのが人の常というものだ。
しかしできるなら、復讐心をバネに強くなり、対処法を学び、痛みを知り、相談に乗ってくれた人達の優しさに感謝して、次回は自分が苦しんでいる人に出会ったら力になってあげたい。憎しみにとらわれていては前へ進めない。免疫がついたと思って強くなるのが一番だ。その心がけこそ、一生消えない、善のタトゥーになるはずだ。
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